英国での税務上の居住者判定(日本の居住者・日本人向け)
英国は法定居住者テスト(SRT)で居住者を判定します。まず自動的国外テストと自動的英国テスト、次に英国での滞在日数と英国とのつながりの数を組み合わせます。英国の課税年度は4月6日から翌年4月5日までです。日本は住所(生活の本拠)又は1年以上の居所で判定するため、両国の居住者となった場合は日英租税条約第4条第2項で振り分け、二重課税は両国の税額控除で調整します。
無料・登録不要、約3分。日本の所得税法に基づく結論を、英国の法令および租税条約と比較します。
英国で税務上の居住者とされる場合
英国は独自の法定居住者テスト(Statutory Residence Test, SRT)により、英国の課税年度(4月6日~翌年4月5日)ごとに居住者かどうかを判定します。日本の暦年(1月1日~12月31日)とは期間が異なります。
- 英国の課税年度に英国で183日以上過ごしました。自動的に英国の居住者です。
- あなたの住居は英国にだけあります(日本を含む国外に、30日以上過ごした住居がありません)。住居テストにより英国の居住者です。
- 365日の期間に英国でフルタイムで働きました。英国の居住者です。
- 英国での滞在日数と英国とのつながりの数が、十分なつながりテストの基準に達しています。183日未満でも英国の居住者です。
非居住者となる場合
- 英国での滞在日数が、どの英国テストに必要な日数(16日又は46日)にも達していません。自動的に英国の非居住者です。
- 国外でフルタイムで働き、英国滞在が91日未満です。自動的国外テストにより英国の非居住者です。
- 十分なつながりテストでは、滞在日数に対して英国とのつながりが足りません。英国の非居住者です。
英国の法令と日本の規定が食い違う点
- 衝突:1年未満の英国赴任 — 日本では居住者のまま、英国では183日で居住者. 国外での勤務が継続して1年以上に及ぶ予定でなければ、日本では国内に住所を有しない者と推定されず(所得税法施行令第15条)、日本の居住者のままとなり得ます。一方、英国は課税年度に183日以上滞在すれば自動的に居住者とします。双方居住者となった場合は、日英租税条約第4条第2項により、恒久的住居 → 重要な利害関係の中心 → 常用の住居 → 国籍 → 権限のある当局の合意の順で振り分けます。日本に家族と住居を残した短期赴任では、日本の居住者とされることが多くなります。
- 衝突:英国は183日未満でもあなたを居住者とします. SRTでは、住居テスト、英国でのフルタイム勤務、又は十分なつながりテスト(家族、宿泊場所、仕事、90日、国)により、183日未満でも英国居住者となります。日本にも住所があれば双方居住者となり、日英租税条約第4条第2項で判定します。両国に恒久的住居がある場合は、家族、仕事、資産などがどちらにあるか(重要な利害関係の中心)が決め手になります。
- 衝突:日本に帰国した後も英国があなたを居住者とすることがあります. 過去3課税年度のいずれかに英国居住者であった場合は、16日とつながり4つ(又は46日とつながり3つ)で英国居住者のままとなります。日本に帰国して住所を日本に移した年でも、英国の課税年度(4月6日~翌年4月5日)の基準を満たせば双方居住者になり得ます。条約第4条第2項で判定し、英国の分割年課税(split year treatment)が適用されるかも確認してください。
そのほかの注意点
- 二つの異なる基準:日本は住所・1年以上の居所、英国はSRT. 日本は、生活の本拠(住所)が日本にあるか、日本に引き続き1年以上居所があるかで居住者を判定し、滞在日数の基準はありません。英国は課税年度(4月6日~翌年4月5日)ごとに、法定居住者テストにより滞在日数と英国とのつながりを数えて判定します。そのため、同じ時期に両国の居住者となること(双方居住者)も、どちらの居住者でもないこともあり得ます。双方居住者となったときは、日英租税条約第4条第2項で一方の国に振り分けます。
- 課税年度の違いと183日の数え方. 日本は暦年(1月1日~12月31日)、英国は4月6日~翌年4月5日です。一つの滞在が両国で別々の「年」にまたがります。日英租税条約第14条第2項の183日は、課税年度又は賦課年度において開始し、又は終了するいずれの12か月の期間についても数えます。どの12か月をとっても英国での滞在が合計183日を超えないことが必要で、暦年ごとに183日以下であっても要件を満たさないことがあります。
- 英国での勤務の給与:日英租税条約第14条. 条約上日本の居住者である人が英国で勤務した場合、英国での滞在がいずれの12か月の期間でも合計183日以下で、給与を英国居住者でない雇用者が支払い、英国の恒久的施設が負担していなければ、その給与は日本でだけ課税されます。一つでも満たさない場合、英国は英国での勤務日数に対応する給与に課税し、日本は外国税額控除(条約第23条第2項、所得税法第95条)で二重課税を調整します。
- 二重課税の調整:日本も英国も税額控除. 条約上日本の居住者であれば、英国で課された税を日本の所得税から差し引きます(第23条第2項)。限度はその所得に対応する日本の税額で、確定申告に外国税額控除の明細書と英国で納税したことを証する書類を添付します。条約上英国の居住者であれば、日本は日本の国内源泉所得にだけ課税し、英国がその日本の税を英国の税から控除します(第23条第1項)。英国で条約の軽減を受けるには、日本の税務署で居住者証明書の交付を受けて提出します。
- 英国の新規居住者向けFIG制度. 英国に来る前に少なくとも10年間英国の非居住者であった場合、英国居住の最初の4課税年度まで、FIG制度を選択できます。対象となる国外の所得と譲渡益(例えば日本の預金の利子、日本株式の配当や譲渡益)は英国で課税されませんが、所得税とキャピタルゲイン税の非課税枠を失い、国外の給与所得は対象外です。条約上英国の居住者であっても、日本はこれらの日本源泉の所得に非居住者として源泉徴収などで課税することがあります。
- 到着・出国の年:英国は課税年度を分割することがあります. 住居の移転、フルタイム勤務の開始又は終了などの要件を満たすと、英国の課税年度は二つに分割され、国外の部分は非居住者として課税されます(選択制ではありません)。日本では、出国の日までが居住者期間、翌日以後が非居住者期間となり、暦年単位で別々に扱われます。
- 社会保障:日英社会保障協定(2001年2月発効). 日英社会保障協定は、年金制度の保険料の二重負担を防ぐためのものです。対象は日本・英国とも公的年金制度で、加入期間の通算はできません。日本の医療保険は協定の対象外です。一時派遣で日本の年金制度だけに加入し続けるには、日本年金機構で適用証明書の交付を受けます。派遣期間などの要件は日本年金機構の英国のページで確認してください(本パッケージでは未確認)。
双方居住者の振り分け
両国があなたを居住者とみなす場合、租税条約第4条第2項が適用されます:所得及び譲渡収益に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の条約(2006年2月2日署名、2013年12月17日署名の議定書による改正後)。恒久的住居、重要な利害関係の中心、常用の住居、国籍の順に判定し、それでも決まらない場合は両国の権限ある当局の合意によります。
英国で目にする用語
- Statutory Residence Test(SRT)
- 英国の法定居住者テスト。自動的テストと十分なつながりテストからなる
- tax year
- 英国の課税年度。4月6日から翌年4月5日まで
- UK ties
- 英国とのつながり:家族、宿泊場所、仕事、90日、国(country tie)
- split year treatment
- 到着又は出国の年に課税年度を居住者部分と非居住者部分に分ける取扱い
- FIG regime
- 2025年4月6日からの新規居住者向け4年間の国外所得・譲渡益制度
- HMRC
- 英国歳入関税庁(HM Revenue & Customs)
よくある質問
英国に1年未満赴任する場合、日本の居住者のままですか?
国外での勤務が継続して1年以上に及ぶ予定でなければ、日本の住所は国外にあると推定されず、日本の居住者のままとなることがあります。英国でも課税年度に183日以上滞在すれば自動的に居住者となるため、双方居住者となった場合は日英租税条約第4条第2項(恒久的住居、重要な利害関係の中心、常用の住居、国籍の順)で判定します。
日英租税条約の183日ルールはどう数えますか?
第14条第2項では、課税年度又は賦課年度において開始し、又は終了するいずれの12か月の期間においても英国滞在が合計183日を超えないことが要件です。さらに、給与が英国居住者でない雇用者から支払われ、英国の恒久的施設が負担していないことが必要です。
日英社会保障協定で何が変わりますか?
2001年2月に発効した協定で、年金制度の保険料の二重負担を防ぎます。加入期間の通算はできず、日本の医療保険は対象外です。一時派遣で日本の年金制度に加入し続けるには、日本年金機構で適用証明書の交付を受けます。
出典
法令・公式の解説
- Finance Act 2013, Sch. 45 (Statutory Residence Test) — 自動的英国テストの少なくとも1つを満たし、かつ自動的国外テストをいずれも満たさない者、又は十分なつながりテストを満たす者は英国居住者となる。自動的国外テストが優先する。
- Income Tax Act 2007, s. 4(3) — 英国の課税年度は4月6日から翌年4月5日まで。
- HMRC RDR3 — Statutory Residence Test guidance — 法定居住者テスト(SRT)に関するHMRCの公式ガイダンス。
- Sch. 45, paras 12–14 — 自動的に非居住者となる場合:英国滞在が16日未満(過去3課税年度のいずれかに英国居住者であった場合)、46日未満(そうでない場合)、又は国外でフルタイムで勤務し、英国滞在91日未満かつ英国での勤務日(3時間超)31日未満。
- Sch. 45, paras 22–23 — 午前0時に英国にいた日を1日と数える。乗継ぎの日は数えない。例外的な事情(戦争、自然災害等)により英国に滞在した日は60日まで除外できる。
- Sch. 45, para 7 — 課税年度に英国で183日以上過ごした者は、自動的に英国居住者となる。
- Sch. 45, paras 8, 25 — 住居テスト:30日以上過ごした英国の住居があり、30日以上過ごした国外の住居がない(91日の期間で判定)。
- Sch. 45, para 9 — 365日の期間に英国でフルタイム勤務(平均週35時間以上、勤務日の75%超が英国)。
- Sch. 45, paras 17–19, 31–38 — 十分なつながりテスト:到着者 — 46~90日でつながり4つ、91~120日で3つ以上、121日以上で2つ以上。出国者(過去3年のうち1年以上英国居住者)— 16~45日で4つ以上、46~90日で3つ以上、91~120日で2つ以上、121日以上で1つ以上。つながり:家族、宿泊場所、仕事、90日、国(country tie)。
- 所得税法 第2条第1項第3号~第5号 — 居住者=国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人。非永住者=居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人。非居住者=居住者以外の個人。
- 日英租税条約 第4条第2項 — 双方の締約国の居住者に該当する個人の地位:(a) その使用する恒久的住居が所在する締約国の居住者とみなす。双方に恒久的住居を有する場合は、人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある締約国)の居住者とみなす。(b) 重要な利害関係の中心がある締約国を決定することができない場合又はその使用する恒久的住居をいずれの締約国内にも有しない場合は、常用の住居が所在する締約国の居住者とみなす。(c) 常用の住居を双方に有する場合又はいずれにも有しない場合は、国民である締約国の居住者とみなす。(d) 双方の国民である場合又はいずれの国民でもない場合は、両締約国の権限のある当局が合意により解決する。
- 所得税法施行令 第15条 — 国外に居住することとなった個人が、①国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合、又は②外国の国籍若しくは外国の永住許可を有し、国内に生計を一にする親族がいないなど、再び国内に帰り主として国内に居住すると推測するに足りる事実がない場合には、国内に住所を有しない者と推定する。生計を一にする同居家族も同様。
- Sch. 45, Part 3 (paras 44–51); HMRC RFIG21010 — 到着又は出国の年は、一定の要件の下で英国の課税年度が分割され、国外の部分は非居住者として課税される。選択制ではなく、要件を満たせば自動的に適用される。
- 日英租税条約 第14条第2項 — 一方の締約国の居住者が他方の締約国内で行う勤務の報酬は、次のすべてを満たせば居住地国でのみ課税される:(a) 当該課税年度又は賦課年度において開始し、又は終了するいずれの12か月の期間においても、他方の締約国内に滞在する期間が合計183日を超えない;(b) 報酬が他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われる;(c) 報酬が雇用者の他方の締約国内に有する恒久的施設によって負担されない。
- 日英租税条約 第23条第2項 — 日本:日本の居住者が条約に従い英国で租税を課される所得を英国内で取得する場合、その所得について納付される英国の租税の額は、日本の租税から控除される(外国税額控除に関する日本の法令に従う)。控除額は、その所得に対応する日本の租税の額を超えない。
- 所得税法 第95条;国税庁 タックスアンサー No.1240 — 居住者が外国所得税を納付する場合、控除限度額(その年分の所得税額×調整国外所得金額/所得総額)を限度として所得税額から控除し、超える部分は復興特別所得税の控除限度額まで控除する。控除余裕額・控除限度超過額は3年間繰越し可。非永住者の国外所得は国内払い・送金分に限る。条約上の限度税率を超える部分は対象外。申告書に「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」と外国所得税を課されたことを証する書類を添付する。
- 日英租税条約 第23条第1項 — 英国:日本源泉の所得について条約に従い納付される日本の租税は、同じ所得について計算される英国の租税から控除される(英国法の外国税額控除の規定に従う)。英国法が免除を定める場合、日本の恒久的施設の利得等は英国の租税を免除される。
- 国税庁 タックスアンサー No.9210 居住者証明書の請求 — 租税条約に基づく減免等を受けるために必要な日本の居住者であることの証明書は、所轄の税務署が発行する。居住者証明書(2部)と交付請求書を郵送又は来署で提出する。相手国が様式を定めていればその様式、なければ国税庁様式を使う。
- Finance Act 2025, s. 37; ITTOIA 2005 ss. 845A–845J; GOV.UK «Check if you can claim the 4-year foreign income and gains regime» (published 6 April 2025) — 2025年4月6日から、送金課税(remittance basis)に代わり4年間の国外所得・譲渡益(FIG)制度が導入された。少なくとも10年間英国の非居住者であった後、英国居住の開始から連続する最長4課税年度について、自己申告書で選択する。選択者は所得税とキャピタルゲイン税の非課税枠を失う。国外の給与所得及び特定の雇用所得は対象外。
- 所得税法 第161条・第212条・第213条;国税庁 タックスアンサー No.2884 — 非居住者に国内源泉所得を支払う者は源泉徴収を行う。税率:給与その他人的役務の提供に対する報酬・退職手当等、不動産の賃貸料等、貸付金の利子、使用料:20.42%、上場株式等の配当・利子等:15.315%。租税条約で軽減・免除を受けるには支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で提出する。
- 国税庁 タックスアンサー No.1926(令和8年4月1日現在) — 国内の会社の給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され非居住者となる。年の中途の転出で納税管理人を指定した場合は居住者期間の全所得と非居住者期間の国内源泉所得を翌年2月16日~3月15日に申告し、指定しないで出国する場合は出国の時までに準確定申告をする。国内不動産の賃貸料は原則20.42%で源泉徴収される。
- 日本年金機構 社会保障協定:国別の発効時期と対象となる制度の一覧(2025年10月27日更新) — 英国との協定は2001年2月発効。対象は日本・英国とも公的年金制度。加入期間の通算はできない(保険料の二重負担の防止のみ)。
裁判例
- イングランド・ウェールズ控訴院(Court of Appeal), A Taxpayer v HMRC [2025] EWCA Civ 106, 2025-02-13 — 附則45第22項(4)の日数除外の要件である「例外的な事情」の判断には、道徳的義務(重病の親族の子の世話)も考慮できるとされた。英国に50日滞在した者が、基準の45日に対して英国の非居住者と判断された。
- 第一審審判所 租税部(First-tier Tribunal, Tax Chamber), Michael Parker v HMRC [2026] UKFTT 652 (TC), 2026-05-01 — 3日が乗継ぎ、1日が例外的な事情による滞在とされ、残る英国滞在89日で国外フルタイム勤務テストを満たし、英国の非居住者と判断された。
更新日 2026-11-04. 結果は情報提供のみを目的とするもので、税務上・法律上の助言ではありません。税務当局や裁判所は、ここで考慮していない事情も含めて異なる解釈をすることがあり、法令も改正されます。判断の前に専門家にご相談ください。