スイスでの税務上の居住者判定(日本の居住者・日本人向け)
スイスは、税務上の住所(Wohnsitz)があるか、就労して30日以上・就労せずに90日以上滞在すれば居住者とし、連邦・州・市町村の所得税を課します。日本は住所(生活の本拠)又は引き続き1年以上の居所で判定します。両国の居住者となった場合は日・スイス租税条約第4条第2項で振り分けます。スイスは日本で課税される所得を免除し(累進留保)、日本は外国税額控除で調整します。
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スイスで税務上の居住者とされる場合
スイスでは、税務上の住所(Wohnsitz:とどまる意思をもった住居、生活の中心)があるか、就労して30日又は就労せずに90日滞在するだけで居住者となります。
- スイスの住居と家族により税務上の住所(Wohnsitz)があります — スイスの居住者として無制限納税義務を負います(全世界所得に連邦・州・市町村の所得税)。
- 就労して30日以上(就労せずに90日以上)スイスに滞在しました — 税務上の滞在(Aufenthalt)に当たり、滞在初日からスイスの居住者です。
非居住者となる場合
- 留学又は治療のみの滞在では、スイスの居住者となりません(DBG第3条第4項)。
- 30日/90日の基準を満たさず、住所もありません — スイスの居住者ではありません。スイスで実際に行った勤務の給与は、スイスの雇用主又はスイスの恒久的施設が支払う場合にスイスで課税されます(源泉課税)。スイス国外の雇用主の場合は、日・スイス租税条約第15条第2項(暦年に開始又は終了する12か月の期間で183日)が適用されます。
スイスの法令と日本の規定が食い違う点
- 抵触:スイスと日本の両方があなたを居住者とする. スイスは、住所(永続的に定住する意思をもった滞在)があるか、就労して30日以上・就労せずに90日以上滞在すれば居住者とします(DBG第3条)。日本では、生活の本拠(住所)が日本にあるか、引き続き1年以上居所があれば居住者です。家族を日本に残してスイスに赴任した場合などは、両国が居住者として課税します。日・スイス租税条約第4条第2項(恒久的住居→重要な利害関係の中心→常用の住居→国籍→合意)でどちらか一方の居住者と判定します。
- スイスは30日又は90日の滞在で居住者とします. スイスで働く場合は30日、働かない場合は90日の滞在で、住所がなくても税務上の滞在(Aufenthalt)となり、滞在初日から居住者です。日本の会社から数か月の予定でスイスに出張・派遣されても、日本の住所は通常そのまま残るため、両国の居住者となります。条約第4条第2項では、恒久的住居が日本にだけあれば日本の居住者です。その場合、スイスでの勤務の給与は、第15条第2項の条件(当該暦年に開始又は終了するいずれの12か月の期間でも滞在が合計183日以下、雇用者がスイスの居住者でない、スイスの恒久的施設の負担でない)を満たせば日本でのみ課税されます。
- 家族がスイスに住んでいる場合. 既婚者の税務上の住所は、通常、家族が共に暮らす場所にあるとされます(スイス連邦最高裁 2C_398/2021)。家族とともにスイスに住みながら日本にも住所や住居を残している場合は、両国が居住者として扱うことがあります。条約第4条第2項では、両国に恒久的住居があれば重要な利害関係の中心で判定し、家族の居住地はその重要な要素になります。
そのほかの注意点
- 入国・出国の年:スイスは到着の日から課税します. スイスの納税義務は住所又は滞在を取得した日に始まり、出国で終わります。その年は該当する期間の所得にだけ課税されます(DBG第8条・第40条)。日本も出国の年は、居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得を合わせて申告します。両国の期間を突き合わせてください。
- B・L許可の保有者の源泉課税(Quellensteuer). スイスに住所又は滞在がある、C許可のない外国人被用者(B許可・L許可など)は、スイスの雇用主が給与から税を源泉徴収します。総所得が12万スイスフラン以上の場合は通常の賦課課税となり、それ未満でも翌年3月31日までに申請できます(撤回不可)。日本の会社が給与を支払い、スイスに恒久的施設がない場合は源泉徴収されず、通常の賦課課税で課税されます。
- スイスの居住者:日本の所得は免除(累進留保付き). 条約上スイスの居住者となる場合、条約により日本で課税できる所得(日本で行った勤務の給与、日本の不動産所得など)はスイスで免除されますが、残りの所得には免除した所得を含めた場合の税率が適用されます(第23条第3項)。日本からの配当・利子は、申請により、税額控除、定額の軽減又は一部免除のいずれかで救済されます(同条第4項)。
- 日本の居住者:スイスの税は外国税額控除で調整. 条約上日本の居住者となる場合、スイスで課税された所得も日本で申告し、スイスの税(連邦・州・市町村の所得税)を日本の所得税から控除します(第23条第1項、所得税法第95条)。控除できるのは、日本の所得税額のうちその所得に対応する額までです。
- スイスの一括課税(支出に基づく課税). スイス国籍がなく、初めて又は10年以上の不在の後にスイスの居住者となり、スイスで就労しない人は、多くの州で、所得ではなく生活費(支出)を基準にした一括課税を選べます(DBG第14条)。チューリッヒなど一部の州では利用できません。条約が求める場合は、課税標準を条約相手国の所得に拡大します(第14条第5項)。日・スイス租税条約上、一括課税を受ける人が条約の特典を受けられるかどうかは確認していません。
- 社会保障:日・スイス社会保障協定(2012年3月発効). 日・スイス社会保障協定は2012年3月に発効し、年金の加入期間を通算できます。対象は両国の公的年金制度と公的医療保険制度です。5年を超えない見込みで日本から派遣される場合は、日本の機関が発行する適用証明書により日本の制度に加入し続け、スイスの制度は免除されます。
- 税負担の大部分は州税と市町村税. 州と市町村も連邦と同じ居住者の基準(住所、30日/90日)を用い、所得税負担の大部分は州税と市町村税です。税率は州と市町村によって大きく異なります。
双方居住者の振り分け
両国があなたを居住者とみなす場合、租税条約第4条第2項が適用されます:日・スイス租税条約(Abkommen zwischen der Schweiz und Japan zur Vermeidung der Doppelbesteuerung auf dem Gebiete der Steuern vom Einkommen、1971年1月19日署名、2010年・2021年の議定書により改正、SR 0.672.946.31)。恒久的住居、重要な利害関係の中心、常用の住居、国籍の順に判定し、それでも決まらない場合は両国の権限ある当局の合意によります。
スイスで目にする用語
- Wohnsitz
- 税務上の住所。永続的に定住する意思をもった滞在(DBG第3条)
- Aufenthalt
- 税務上の滞在。就労して30日、就労せずに90日
- Quellensteuer
- 源泉課税。C許可のない外国人被用者の給与から徴収
- Besteuerung nach dem Aufwand
- 支出に基づく課税(一括課税)。スイスで就労しない外国人向け
- Kanton
- 州。所得税負担の大部分は州税と市町村税
- ESTV
- スイス連邦税務局
よくある質問
日本の会社から2か月スイスに出張します。スイスの居住者になりますか?
スイス法では、就労して30日以上滞在すれば税務上の滞在となり、滞在初日から居住者です。日本の住所が残っていれば日本の居住者でもあるため、条約第4条第2項で判定し、恒久的住居が日本にだけあれば日本の居住者となります。給与は第15条第2項の条件(暦年に開始又は終了する12か月で183日以下など)を満たせば日本でのみ課税されます。
スイスの居住者になると、日本の所得はどう扱われますか?
条約第23条第3項により、日本で課税される所得はスイスで免除されますが、残りの所得には免除した所得を含めた場合の税率が適用されます。日本からの配当・利子は、第4項により申請に基づいて救済されます。
日本とスイスの社会保障協定はありますか?
あります。2012年3月に発効し、年金と医療保険が対象で、年金の加入期間を通算できます。5年を超えない見込みの派遣であれば、適用証明書により日本の制度に加入し続けます。
出典
法令・公式の解説
- Art. 3 DBG (SR 642.11) — スイスに税務上の住所(Wohnsitz:永続的に定住する意思をもって滞在すること)又は税務上の滞在(Aufenthalt:一時的な中断にかかわらず、就労して30日以上、就労せずに90日以上)がある者は無制限納税義務を負う。留学又は治療のみを目的とする滞在では居住者とならない。
- Art. 3 StHG (SR 642.14) — 州と市町村も同じ基準(住所、30日/90日)を適用する。所得税負担の大部分は州税と市町村税である。
- Art. 83, 89, 91 DBG — スイスに住所又は滞在がある、定住許可(C許可)のない外国人被用者(B許可・L許可の保有者など)は、源泉課税(Quellensteuer)を受ける。総所得が12万スイスフラン以上の場合や源泉徴収の対象とならない所得がある場合は、通常の賦課課税が行われる。
- 日・スイス租税条約 第15条第2項 — 一方の国の居住者が他方の国で行う勤務の報酬は、当該暦年に開始又は終了するいずれの12か月の期間においても他方の国での滞在が合計183日を超えず、報酬が他方の国の居住者でない雇用者から又はこれに代わる者から支払われ、報酬が雇用者の他方の国にある恒久的施設によって負担されない場合には、居住地国でのみ課税される。
- 所得税法 第2条第1項第3号~第5号 — 居住者=国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人。非永住者=居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人。非居住者=居住者以外の個人。
- 日・スイス租税条約 第4条第2項 — 両締約国の居住者である個人は、(a) 恒久的住居を有する国の居住者とみなし、両国に有する場合は人的・経済的関係がより密接な国(重要な利害関係の中心)の居住者とみなす。(b) 重要な利害関係の中心がある国を決定できない場合又はいずれの国にも恒久的住居を有しない場合は常用の住居を有する国、(c) 両国に常用の住居を有する場合又はいずれにも有しない場合は国民である国の居住者とみなす。(d) 両国の国民である場合又はいずれの国民でもない場合は、両国の権限ある当局が合意により解決する。
- Art. 8, 40 DBG — 納税義務は住所又は滞在を取得した日に始まり、出国により終了する。1年の一部の期間のみの場合は、その期間の所得にのみ課税される(期間按分)。
- 国税庁 タックスアンサー No.1926(令和8年4月1日現在) — 国内の会社の給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され非居住者となる。年の中途の転出で納税管理人を指定した場合は居住者期間の全所得と非居住者期間の国内源泉所得を翌年2月16日~3月15日に申告し、指定しないで出国する場合は出国の時までに準確定申告をする。国内不動産の賃貸料は原則20.42%で源泉徴収される。
- ESTV, Circular No. 45 (12.06.2019) — 源泉課税は、スイスに本店又は恒久的施設を有する支払者のみが徴収する。そのような支払者がいない場合は源泉徴収されず、所得は通常の賦課課税で課税される(2.2.1、3.2.1)。
- Art. 4, 9, 10 QStV (SR 642.118.2) — スイスの居住者でない雇用主からの給与は、スイスの恒久的施設が負担する場合を除き、源泉課税ではなく通常の賦課課税による(第4条)。所得12万スイスフラン以上は通常の賦課課税が義務となり(第9条)、それ未満は翌年3月31日までに申請でき、撤回できない(第10条)。
- 日・スイス租税条約 第23条 — 第1項:日本の居住者がスイスで課税される所得を取得する場合、スイスの租税を日本の租税から控除する(その所得に対応する日本の租税の額が限度)。第3項:スイスの居住者が条約により日本で課税される所得を取得する場合、スイスはその所得を免除するが、残りの所得には免除した所得を含めた場合の税率を適用できる(累進留保)。第13条第2項の譲渡益は日本で課税されたことが証明された場合に限り免除。第4項:第10条(配当)・第11条(利子)の所得は、申請により、税額控除、定額の軽減又は一部免除のいずれか(スイスが方法を定める)で救済する。
- 所得税法 第95条;国税庁 タックスアンサー No.1240 — 居住者が外国所得税を納付する場合、控除限度額(その年分の所得税額×調整国外所得金額/所得総額)を限度として所得税額から控除し、超える部分は復興特別所得税の控除限度額まで控除する。控除余裕額・控除限度超過額は3年間繰越し可。非永住者の国外所得は国内払い・送金分に限る。条約上の限度税率を超える部分は対象外。申告書に「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」と外国所得税を課されたことを証する書類を添付する。
- Art. 14 DBG; ESTV Steuermäppchen 2025 «Besteuerung nach dem Aufwand» — 支出に基づく課税(一括課税)は、スイス国籍を有せず、初めて又は10年以上の不在の後に無制限納税義務者となり、スイスで就労しない者に限り利用できる(夫婦は双方が要件を満たす必要がある)。2025年の連邦の最低課税標準:43万4,700スイスフラン又は年間家賃・賃貸価値の7倍のいずれか高い額で、対照計算が行われる。チューリッヒ、バーゼル=シュタット、シャフハウゼン、アッペンツェル・アウサーローデンでは利用できず、バーゼル=ラントシャフトは経過措置のみ。条約が求める場合は、課税標準を条約相手国の所得に拡大する(DBG第14条第5項)。
- 日本年金機構:社会保障協定の発効時期と対象となる社会保障制度(協定相手国一覧) — スイス:2012年3月発効。加入期間の通算あり。対象は両国とも公的年金制度と公的医療保険制度。
- 日本年金機構:二重加入の防止(相手国から日本に派遣される場合) — 協定により、原則として就労する国の社会保障制度にのみ加入する。5年を超えない見込みで派遣される場合は例外として派遣元の国の制度にのみ加入する(協定によっては、見込み期間にかかわらず派遣開始から5年間を免除とするものもある)。5年を超える延長は両国の合意による。免除を受けるには派遣元の国の機関が発行した適用証明書が必要。この考え方は原則として自営業者にも当てはまる。
裁判例
- スイス連邦最高裁判所(Bundesgericht), 2C_480/2019, 2020-02-12 — 税務上の住所(Wohnsitz)は、永続的にとどまる意思をもって滞在し、生活上の利害の中心となった場所である。実際に住んでいる証拠のない国外の住まいや郵便の宛先だけでは中心の移転は証明されない。住所には通常、少なくとも1年の見通しが必要である。
- スイス連邦最高裁判所(Bundesgericht), 9C_496/2023 (BGE 150 II 244), 2024-02-29 — 全体として新しい場所との結びつきがより重要であれば、スイスの住居を保持していても住所の移転は認められる。住所には通常、少なくとも1年の滞在予定が必要だが、後に移る意思があっても否定されない。国際的な事案では、家族の居住地が自動的に優先されるわけではない。
- スイス連邦最高裁判所(Bundesgericht), 9C_702/2024, 2026-01-13 — 税務上の住所は登録ではなく客観的な生活上の利害の中心に従う。署名された賃貸借契約のない部屋、現金での家賃支払、従前の住居を保持したままで転居の証拠がないことは、仮装の居住を示す。書類の提出拒否は納税者に不利に評価されうる(州間の紛争。DBG第3条と同じ基準)。
- スイス連邦最高裁判所(Bundesgericht), 2C_398/2021, 2021-12-23 — 既婚の納税者の住所は、通常、家族が共に暮らす住居の所在地(Familienort)にある。
- スイス連邦最高裁判所(Bundesgericht), 2C_186/2020, 2020-12-28 — 税務上の滞在(Aufenthalt)は出国により終了したため、納税義務は1年全体ではなく1年の一部について期間按分で生じるとされた。
更新日 2026-11-04. 結果は情報提供のみを目的とするもので、税務上・法律上の助言ではありません。税務当局や裁判所は、ここで考慮していない事情も含めて異なる解釈をすることがあり、法令も改正されます。判断の前に専門家にご相談ください。